地方巡演の旅

劇団の芝居で地方巡演の旅に出ている。
以前この欄に書いたが、受け入れ先は各地の演劇鑑賞団体だ。

今回の「わがババわがまま奮斗記」のスタッフ、キャストは総勢三十人の編成で、地方公演としては中くらいか。
大きな都市の場合は会員数も多く、二、三日滞在できることもあるが,大概その土地で一公演というのが多い。

毎日トランクを引っ張って電車を乗り継いで次の土地に移動する。
宿に荷物を入れてほっとする間もなく劇場入りだ。
舞台装置は十一トンのトラックで移動する。
毎回異なる劇場に運び込み、装置を組み立て、芝居が終わるとそれをバラしてまた積み込む。
衣裳小道具も同じことで(これらの作業だけは劇団員五十歳以上は免除というきまりはあるが)
終演後遅い夕食にありつけるのは、十一時近くなる。
昔は、宿泊は旅館が主で食事もついていたが、今はほとんどがビジネスホテルだから
、そんな遅い時間に食事のできる店は限られている。
コンビニで適当なものを買って部屋で食べる人、それぞれだ。
毎日のように枕が変わり、隣の部屋の音がつつぬけだったりすると、眠るのに一苦労の時もある。

そんな旅公演の、今回の初日は神戸だった。
震災以来はじめて訪れた神戸の街は、脳裡に焼きついているあの無惨な様相を、
消しゴムで消し去るように、見事に生まれ変わっていた。

しかし、五年間据え置きだった貸し付け制度も六年目になった今、
それぞれが返金していかなければならないという状況もあり、苦しい生活を余儀なくされている方たちも多い。
芝居を見続けることが難しくなって会員の数も減っているという現実もある。

複雑な思いのなか、神戸での幕が開いた。
が、芝居の進行に従って、客席という大きな吸い取り紙に舞台の全てが吸い込まれているような、
今まで味わったことのない感覚を覚えていた。
カーテンコールで拍手が熱い手拍子に変わって、舞台上の私たちも思わず客席に拍手を送っていた。
「震災で、人の心のふれあいをなにより大事に感じた」
と語っていた神戸の方たちの言葉が、胸にずどんと来た。

明日からの旅公演も、大切に元気に続けていこうと、劇団の皆と話している。

(静岡新聞「窓辺」2000.3.18より)


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