ニューヨークの雪

寒い。
なかなか寝床を離れられないでいる朝、FAXが入った。
ニューヨークに住む友人からだった。暖冬が続いていたけれど、
今年の冬は氷点下二十度になる日もあり、雪も降っていますと書き出しにある。

私が初めてニューヨークに行った時も雪が降っていた。
もう三十年近く前のこと。

その後何度となく行っているが、訪れる度ごとに、こんなに印象の変わる街もないなと思う。
ヨーロッパのそれとは対照的に、いつも変化し動いている街という感じだ。

この何年かで随分街もきれいになり、治安もよくなった。
そのころ頑張って四十日ぐらいの休暇をとり、夫と一緒に市内にアパートを借りて暮らした。
翌年も行ったが二度とも六月のころだった。
大きな目的はもちろん、ブロードウェイの芝居を観ることだったから、ほとんど毎日劇場通いだ。
渋滞だけは相変わらずのイエローキャブはあてにならないから、スニーカーをはいて、てくてく歩く。
途中のセントラルパークの木々が、日ごとに緑を深くしていくのを見るのもこの季節ならではだ。

劇場は、ミュージカルはもちろん、ストレートプレイもオペラもオフブロードウェイも、
いつも満員の客で溢れている。
若者からお年寄りまで客層はひろく、女性客がほとんどという日本の劇場とは異なり、
夫婦、恋人同士といったカップルも数多い。
開演を待つ間、前の席の老夫婦の夫が妻の肩に手をまわして話をしている。
劇場に来ることをパートナーと楽しんでいる様子が伝わってくる。
劇場はこの夫婦の長い人生とともにあったに違いない。そんなことを思う。

人種もさまざまな開演前の客席は騒々しいほどの賑わいだが、幕が開いてからの舞台と客席の一体感は凄い。
どっと笑いが起こり、どっと拍手がわく。
演じる側も見る側も、その劇場の空間を共有し思う存分楽しんでいる。
芝居は楽しくなくちゃいけないと、あらためて思うと同時に、
人々の生活の中に根づいている文化のさり気なさに感動してしまうのだ。
もちろん、舞台人のはしくれとして心を引き締める時でもある。

今度ニューヨークに来られるのはいつごろでしょうかと、友人のEメールは続く。
六月には、いけそうもないな。

(静岡新聞「窓辺」2000.2.26より)


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