劇団回想録7 
― ト・ラ・イ  ―
西海真理


[朋友]と称号変更後、「幸福」公演も成功裏に終り
新生[朋友]の未来への希望と期待が団内にも広がっていた。
在籍20年を越えた私も、これから劇団はどう進んで行けばいいのか、考え始めていた。

研修的な意味合いを強く持ったアトリエ公演でもなく、勉強会でもない、
その先には全国展開をも視野に入れた小劇場公演が私達にも出来ないものだろうか?
経済的には、今までのアトリエ公演や勉強会と同様、独立採算、
上演場所は、劇団のアトリエではなく、外の劇場に飛び出す。

作品は、大石静さんが、まだ二兎社で活躍していた頃の「VALUE―価値」。
劇場は、下北沢の駅前劇場。演出は、栗谷川洋氏。

ストーリーは、甲子園に出場した高校球児達、郷土の期待を一手に背負い、
自分のたった一球のミスの為に敗退してしまった球児たちが閉じこもってしまった不思議な空間。
ひとりの女が迷い込んできた事から均衡が崩れ、迷い、現実社会に戻っていく話。

私は直接大石氏にお電話をした。
大石氏は「初期の作品で未熟なのであまりやって欲しくない」とおっしゃっていたが、
私は、夢中で
「作品は、既に歩き出しています。もはや、大石さんの物だけではありません。
是非やらせて下さい!」 と生意気な事を言ってしまった。
そこまで言うならどうぞと何分かお話した後にOKを頂いた。

演出も色々な方に出会いたくフリーの栗谷川洋氏にこれまた、私の勢いで快諾を頂いた。
ここまで、下準備をして運営委員会に企画提出。

運営委員会では、劇団としての責任のとり方など、活発な議論が交わされ、
西海にやらせてみようと言う事になった。
そして、新生朋友の新しい試みのこの公演のタイトルは、"アトリエ公演"でもなく、
"試演会"でもなく何か斬新な名にしようと、団内公募する事になった。
その結果名付親となったのは、小島敏彦氏。その名は『スペース』。
スペースには、空間・場所などの他に、宇宙と言う意味もある。
有限と無限の循環の中で、どんな挑戦をも可能とし取り込んでしまう、
開放された自由な世界を感じさせる。というのが、当選理由。

かくして、『SPACE vol.1』がスタートした。
出演は、益海愛子、西海真理、今本洋子、山下光保、進藤忠、山口晴記、
榎本壮一、岡本成師、浦田秀利。

栗さんの演出は細かく、私は、「まだまだ、僕は許しませんよ」としこたましごかれた。
飄飄としたヒコちゃん(山口晴記)の演技に栗さん「一家に一台欲しい役者ですね」と。
また、今では筆頭制作者の夏川正一氏が、作曲を担当した事も懐かしい。

『SPACE vol.1』が、千秋楽を迎える頃にはvol.2をどうするか、頭が動き始めていた。
そんな折、小島敏彦氏とともに、青井陽治氏とお会いする事が出来た。
氏はスペースの意義を、理解してくださり、『やりましょう』とと言って下さった。
そして、地方公演を続けていた「幸福」を修善寺まで尋ねて下さり、大いに盛り上がった。
深夜には若者達と、<どっこの湯>に繰り出し、生まれたまんまの姿で、川渡りまでしたとか・・・。

作品は、トニー賞ベストプレイに選ばれたマイケル・クリストファー原作『シャドウボックス』
企画は小島敏彦氏、私は企画協力と言う形で進んでいった。
ユニークなオーディションを経て、出演は、益海愛子、菅原チネ子、西海真理、深尾真理、
小島敏彦、中下信哉、岡本成師、中田貴久、渡辺弘、
そしてゲストに俳優座の美苗さん。

三つの家族のそれぞれのターミナルケアの話。
駅前劇場の空間を、変形に四角く囲んだ通路が舞台で、それ以外のどの空間にも客席があった。
そして、ミラーを巧みに使った不思議な空間だった。
その舞台の3箇所で同時に3家族の芝居が進行する時もあり、
私達にとっても、新しい試みと体験だった。
終末医療と言う重いテーマにも拘わらず、
生に対する力強さ、そして、透明感があるという評価を頂き、
後に岐阜の中町での公演が実現する事になる。